エアー・トラブル・トラベル
2006年4月15日

来週、ぼくは出来たばかりの神戸空港から羽田まで、往復「スカイマークエアラインズ」を利用する。思えばHISが航空業界に参入して価格破壊を図ってから、国内線は随分と利用しやすい値段になった。この功績は確かにあるし、その後のエア・ドゥなどの参入も引き起こし、日本の空を独占状態から脱皮させたと思う。が、やっぱり決められた飛行回数を終えたら検査して修理しないと…。先日、落雷を受けた航空機をそのまま飛ばし続けていたというのが国土交通省の立ち入り検査で発覚した。少し前には、穴のあいた部分をつぎはぎして飛ばしていたという驚愕の事実まで露見している。言葉を失う程に、困りますよ、スカイマークさん。

今、日本の空が危険だ。ボンバルディアしかり、この期に及んで内紛騒ぎの日本航空。その日航と一緒に、先日、スカイマークエアラインズの経営陣がこぞって衆院の参考人招致に呼ばれた。同情するわけではないが、確かに飛行機を飛ばし「続ける」というのは大変なことなのだろう。特に今のご時世、航空チケット代が8万円でもプラス2万円から3万円の「燃料費」なるものが必要になる。え?なにそれ……、と「こら、イランにサウジにイラクにドバイ」と八つ当たりしてしまう客側の勝手。そこにきて、世界的な動きとして航空業界には「格安」の波が押し寄せ、航空会社のるつぼだったアメリカは淘汰され数を減らした。東南アジアやインドでは、国内線が勢いづき、時間とお金の差を天秤にかけると、裕福な人=飛行機なんて構図はとっくに消え去っている。先日、ぼくはネットで、スペインのバルセロナからマドリッドまでのドメ(国内線)を購入したが、EUR43だった。ゲストハウスに毛の生えたような「ツーリストクラス」ホテルでも、もう少し高いというこの時代に、これは本当に安い。そういう競争激化の中。経営者たちはいかにしてコストを下げるか、空席で飛ばすことをおさえて、効率を上げられるか。そこにばかり目がいっているのかも知れない。「JR西日本」のロゴが頭に浮かんでしまうのはぼくだけだろうか。

日本航空の整備士が、あるテレビ番組で「整備士の人数は減ったのに、検査項目は増えた。この増えた項目分、より十分な安全対策をとっていると経営者は言っている」と、嘆いていた。隠された目、変えられた声の向こうに、かなりの本音が聞こえてくる。嘆く?何百人という人が、未だになぜ飛ぶのかという科学的物証もままならない飛行機に乗りこんで、整備士とパイロットに命を預けているのに、その整備士が嘆く? もうここまでくれば抜本的に変えないとだめだろう。検査する時間は変わらず、10ある項目を2人で検査していた以前から、1人に減って20項目検査しろという。だれがどう考えても、「より十分な安全対策」ではない。ヒューマンエラーという認識がもはや定着した今の世の中、人間はミスするものだという上に立って対策を講じるべきだ。なのにどうだろう、「気合いと根性で乗り切れ」と言わんばかりの古い古い昔話のような現実。こういう考え方の人が、実はまだ日本には多いから困る。

トラベルの語源はトラブルだというジョークを聞いたことがある。確かに、旅にでるとトラブルだらけで、実はそれが後々になって結構、思い出深かったりもする。飛行機に関するトラブルでも、ロスト・バッゲージで二日間着替えがなかったとか、予約していた便がブックアウトされて、振り替え便のビジネスに乗れたとか。あ〜、そんなこともあったな、と懐かしめる。が、後になって話せない「事故」なんてことが起こると、取り返しがつかない。そういう前兆を感じてしまう今、トラブルの範疇を超えたと考えてもいいのかも知れない。

1954年、世界初のジェット旅客機コメット(イギリス)が4ヶ月の間に2度も墜落して運航停止になって以来、これまで、多くの墜落事故が世界で起こっている。航空史上最大の事故と言われるKLMとアメリカン航空の衝突事故。1977年、カナリア諸島のテネリフェ空港で、離陸滑走中に2機が衝突して583人の死者を出した。そして、1985年、群馬県御巣鷹の尾根に墜落した日本航空123便の事故は、なんと単機にもかかわらず520人もの死者を出している。これは航空史上、単機で出した被害者数としては最悪だ。この60年で、一機体に乗れる人数が、先述のコメット36人から700人というものすごい飛躍を遂げている。その分、事故が起こった場合の被害に神経を尖らせるべきはずが、目先の利益ばかりに走りがちなのではないか、と思われても仕様がない事態になっている。こんなジョークもあった、「飛行機の落ちる確率は宝くじにあたるぐらい」だと。あたるはずもない宝くじを毎年買っている感覚で落ちるはずのない飛行機に毎回乗っている、訳ではない。宝くじに当たる人は毎回必ずいるわけで、毎日どこかの飛行機が落ちていたんじゃ話にならない。燃料費に2万円も上乗せされる航空チケットでもぼくは購入する。絶対に落ちないというシステムと雇用のためなら、5千円上乗せされても文句は言わないだろう。それぐらい、経営側には責任を持ってもらいたい。つまりは、「絶対に大丈夫だという強み」が競争力とは関係のないところで確立されるというか。名誉職に止まってはお茶を飲んでる方には進んで「安全」のために退いてもらい、言いたいが言っても無駄という現場の声をもっと上まで筒抜けにして、なんというのか、「ひとつ」になって安全に運んでもらいたい。

先週発表になったカンタス航空系の格安航空会社「ジェットスター航空」が来年、シドニーと関西国際空港をつなぐ。スカイマークエアラインズのように、サービスをきりつめてエアー代金を安くした飛行機だけに、人気があつまるのは必須だろう。が、安いだけに、「やっぱりな」という感覚が起こらないように、それだけは、絶対にあってはならないという強い気持ちで参入してもらいたい。

「安かろう、だから良かろう?」という姿勢が経営陣にあるとは言わないが、そうとも取られかねない格安系の航空会社には、特に言える事かも知れない。ぼくは、スカイマークエアラインズが就航してすぐ、伊丹から福岡まで飛んだ。コーヒーも何も出ない飛行機の旅は、1時間だから、それはそれでよかった。しかし、ここがすごく重要で、「コーヒーが出ないから安い」と思って、それぐらいならいいかとぼくら客はチョイスするのだ。まさか、つぎはぎで飛んだり、安全飛行回数を超過してもそもまま飛ばしているなんて考えてもいない。

ぼくがジンバブエから南アまで飛行機で移動したり、デリーからムンバイまでのドメ(国内線)を使ったというと、それを聞いた日本人は「え〜こわそう」と暢気に心配する。この何神話というのか、日本なら大丈夫という変な安心がある。国内線でこれだけのトラブルが、これだけ長い間止まらないのは、もしかすると、そういうぼくらの「目」の甘さかも知れない。さすがに、今年の大卒就職希望企業で、日本航空はかなりランキングを下げたらしいが、こうなる前に、もっと「目」を光らせなければいけない。ぼくはここに「エアー・トラブル・トラベル」と題したが、飛行機がトラベルとは限らない。特に国内線、東京・大阪間などビジネス利用も多い。交通手段として「毎週利用する」という人も多いし、航空会社側もそういう売り込みをしている。なら、なおのことトラブルは困る。
ビジネスの語源は、ジョークにでも、トラブルとは言えないのだから。




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