寂れた田舎町に現れたジャスミンという名の女性。
太っちょでズーズーしくて凶暴で…、そんな“美しいマリア”。彼女がバグダッド・カフェを救う。

この映画を一言でいうなら、美しいということに尽きる。「飾られるのではなく、発熱する美」とでもいうのか。全編を通して映し出される光と影、風景と光景と会話。一つひとつを切り取りながら進められていく端々にそれを感じる。
コントラストの強い映像は、舞台がラスベガスとロサンゼルスをつなぐ砂漠の外れであることに起因しており、原色に近い「生」がカメラを通して映し出されているからに違いない。

ハナシはちょっとユーモア。冒頭で、ジャスミンは夫と喧嘩別れして、砂漠の真ん中をフォーマルスタイルでスーツケースを引きずって歩いていく(ユーモア)。一方、カフェとモーテルを営む女主人・ブレンダは、子育てやら仕事に追われて忙しい。のに、亭主といえば…頼んでいたこともろくにしてくれない。カフェなのに、コーヒーマシーンが故障して出せない(ユーモア)。ブレンダは夫を追い出してしまう。夫と別れたジャスミンとブレンダは、そんなコーヒーのないカフェで出会う。この二人に友情が芽生えるまでを「典型的」に描いていく。やがて、寂れたカフェはジャスミンの「マジック」でオアシスになっていく、うるさい!と怒鳴られていた息子のピアノが潤し始めた店内で、画家は太っちょの「マリア」に恋をする。追い出されたブレンダの夫は、物陰から望遠鏡でコーヒーのなかったカフェを覗きみる。ユーモア。なんで、なんで?という状況を、いとも簡単に自然にしてしまう。プッと吹き出す笑いと共に。上昇気流のような軽やかで力強いジュベッタ・スティールが歌う「コーリング・ユー」に乗って浮かんでいく感じが、なんとも心地よい。が、これもまた典型的に、ドイツ人のジャスミンはビザの問題で帰国しなければならなくなり……。
「完全版」では、その後、ジャスミンがバグダッド・カフェに戻ってくるところまでを描いているが、結局、これはいらない、とぼくは思う。何度か繰り返して見たが、歳をとるほどに、面白い、と感じる作品。



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BAGDAD CAFE 1987年(西ドイツ)

監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー 他

バグダッド・カフェ