2006年5月3日(水)
2日目

バルセロナ


朝6:40に起床。よく寝たな、という感覚がかなりあった。トイレに行ってから昨日の日記を書く。あいかわらず日記を書き始めると時間がすぐに経つ。8時前にようやく終わり、顔を洗って外へ出る。カウンターでカギを預けるときにブル・ファイトが見られるか聞いてみる。何度も思い出し、どーだったからしら〜っと呼び止められてまでも教えてくれた答えは「ツーリスト・インフォメーションで聞いてみて」とのこと。目の前のランブランス通りにあります、と。それ、知ってます。

まずは、この宿のある細道でビデオを回した。平日の朝8時半過ぎ、さすがに働きに行く人たちがさっそうと歩いている。僕はランブランスとは逆方向、「クワトロ・ガッツ」に向けて歩く。まだほとんどの店が閉まっているが、やっぱり、この宿を出た朝の街の匂いとか風とか、空気が心地よくて本当に好きだ。

地図を広げながら細道を。このバルセロナの旧市街は、確かに入り組んでいて分かりづらいが、角のビルにはストリート名を書いたプレートがあるので、それを確認して進めばいい。えっらく寂しい一角にそれは朝が早いからだろうが、「クワトロ・ガッツ」はあった。かつて、ピカソが足繁く通い、芸術論に花咲かせた店。彼がまだ18歳の多感な青春時代の話だ。モデルニスモという前衛アートの場、憧れのパリ。ピカソがデザインしたメニューは、今もよく見る。現在ある店は再オープンで、当時の内装を再現しているとか。「四匹の猫」。僕がツアーを手配していたころ、いやというほどオーダーを流したっけ。午後1時からのランチタイムは、そういう日本のツアー客が押し寄せるので、ガイドブックを信じて朝8時からのカフェタイムとやらに行こうとした。のに、店内に入ると、一番奥の席でおばさんたちが激しくチャッチング。プラプラと店内を歩いた。大きな壁画が二枚ある。奥に入って座ろうとすると、「クローズ」と言われた。え?まだなの?お茶だけでも……と粘ったが、ノーノーノーと両手を大きく振られた。そーなん!ま、しゃーないかということで店を出た。

そこから、ランブランス通りに戻り、歩く。花屋が店を出し、とても華やか。ツーリスト・インフォメーションでバルセロナの地図をもらい、闘牛について尋ねたが、やはり日曜だけらしい。それは知っていたが、この期間に何か特別な公演でもあれば、と思ったのに。まぁ、いい。近くにあるサン・ジョセップ市場を歩く。魚、肉、果物、野菜。なんでもそろっており、特にフルーツのいい香りが印象的だ。屋台のカフェには買い物の休憩をするご婦人がたでいっぱいだった。美味しそうなパンもあるが、間違いなく甘すぎるのでやめた。子豚の姿のままショーケースにならべてあるとこもあった。漁港が近くだけにやっぱり魚メインなのだろうが、やっぱり果物の印象が強い。

サン・ジョセップ市場を出て、ランブランス通りに戻り、海の方へ歩く。風が気持ちよく陽射しもやさしい。ここをつっきると地中海だ。その手前に高さ60mの「コロンブスの塔」がたっている。海に向かって右手が挙げられ、その土台から上の方へ非常に凝った彫刻がある。天使が羽を広げて飛び立とうとしていたり。思ったよりも荘厳で午前の優しい光をうけて美しかったので、ウロウロ、グルグル、けっこう長い間見とれてしまった。1888年のバルセロナ万博の時に、アメリカとカタルーニャの交易を記念してたてられた、とガイドブックには書いてある。このコロンブスの塔の近くにあるオープン・カフェに座った。バーベキューのように焼いたオニオンにビーフハンバーグ(グリルだな)、卵にトマトにレタスに、そっして、とても美味しい、これまた焼いたパン。つまりはハンバーガーは、食べごたえ十分でめちゃくちゃうまかった。このハンバーガー5ユーロ。コーヒーが2.3ユーロ。けっこう…、たかい。が、美味しかったので、いい。今日は風がつよい。灰皿から灰がマウ。が、やっぱりオープン・カフェが似合うなぁ、ヨーロッパの街並みは!と改めて思う。

カフェを出て海沿いを北東に。バルセロナっ子たちのビーチ、バルセロネータへと向かった。フェリー乗り場やヨットハーバー、水族館などが建ち並び、海沿いの公園では大きな犬をつれたムラサキのおばさんが「オラ〜」とやさしくほほえんでいた。歩くと汗ばむので、パーカを脱いでTシャツ一枚になる。清掃員が多い。海はいつも気持ちがいい。小学生の遠足の子供たちが列になってブランチ?おやつ?を広げる横を通って、バルセロネータに出た。海岸だ。波が白く、水が蒼い。人もそんなにいないので、ぼ〜っと座っていた。風がつよいので砂が気になるが、それよりも気持ちよさの勝ちだ。老年の男たちがゲームをしていた。球を手でなげてあてる。ゲートボールみたいなゲーム。オブジェがその光景の中に溶け込んで、主張する。きれいな海岸だった。海岸に沿って北側にはビルが立ち並び、手前で黒い犬が必至で穴を掘っている。うん、やっぱり海のある街はいい。

しばらく陽射しをあびて、ライエタナ通りへと戻る。海にそってはしるコロン通りとライエタナ通りの交差するところに、まるでなにかの寺院のように重厚な建物があり、観光客がカメラさえ構える、そんな中央郵便局があった。中に入って切手を買おうとすると、どうも自動販売機で買え、と言っているらしく、ハイハイと黄色いマシーンの前に立つ。昨日、エアバスでうまくいかなっただけに、自動販売機にはどうも信用ならないところがある。と、いうより願うような気持ちでボタンを押す。イングリッシュを選択したのに、スペイン語でどんどん進み、あ〜と、戻ろうとする。が、、、戻る、さえも分からない。Astras?かなんかいうボタンを連打するともどり、あとは英語にそって押していく。0.78ユーロで日本までのエアーメールはOK。それを3枚購入した。

郵便局を出てライエタナ通りをゆく。本当に工事が多い。入り組んだ路地を地図をみつつ進むと、ドーンと現れたサンタ・マリア・ダル・マル教会。かつてバルセロナが栄華を誇っていた時代、船乗りによってたてられたというゴシックの教会だ。中に入るのは無料で、天井の高い開放感のある造り。ステンドグラスがとても美しい。赤子を抱いたマリア像がやさしくそびえ立っていた。入口の方には大きな円のステンドグラスがあり、それはそれは圧巻。

そのまま、ピカソ美術館へ。細い道の両側に一つひとつお洒落な店が並ぶ。人に聞きつつたどりついたピカソ美術館はなんと大行列。列に並ぶことなくスイスイ入っていく「ツアー客」が憎たらしい。まぁ、僕はそんな「予約」を日本からしていたのだけど、かつては。1時間近く並んだ。暑いし、埃っぽいところで後ろの陽気なおばちゃんと喋りながら。そこまでして入る価値はあるのか?見終わってから言うと、アリだ。ピカソの絵は世界中のミュージアムでも見られる。しかし、ここはピカソがピカソとして大きくなる前、特にパリに行くまでの少年から青年期の作品が多いのだ。14-18歳の時期に、これだけの絵を描いていたのかと驚かされる。裸を描き、肖像画、デッサン。うまいなぁ、と感嘆できる。ピカソには、そう出会えない「うまさ」、ありきたりな、上手さ。特にすごいのは、15歳の時に描いた「初聖体拝受 La Primera Comunion」かな。ドレスの白い輝きがおそろしいほどによく、左隅にいる女性の眼差しがなんともやさしいのだ。大きさもちょうどいい。後は、「科学と慈愛 Cienciary Caridad」。ベッドに横たわった女性がうつろに上向き、抱かれた赤ん坊を見上げている。あとは、そうだ「ピアノ」もあった。赤くて白い顔の「人」が楽しげにピアノをひく。ここで、ぼくは少年の時に描いた「ハト」がデザインされたメガネケース9ユーロを購入。ピカソ美術館は入場料6ユーロ。(学生証ある?と聞かれた。もうすぐ三十の僕も、まだまだ若いもんだ)

ピカソ美術館を出て、カテドラルに。天気がよく、少々暑かったのでアイスクリームを食べた。カテドラルの前の広場には、バイオリンを弾く人や、ベロタクシー、ハトを追いかける少女などがいて、とてものどか。んっが!肝心のカテドラルは工事中で、その前面にシートと足場が組まれていた。中に入るには4ユーロいる。先程のサンタ・マリア・ダル・マル教会よりもさすがに規模が大きく、ここにはバルセロナの守護聖女であるサンタ・エウラリアが地下にねむっている。印象的には金ぴかという感じで、絵画、彫刻、ステンドグラスと、全てにおいて荘厳だった。

しばらく席に座ってぼーっとする。汗がひいて、心地いい。どこへ行っても観光客が多いなぁと思う。それも日本人以外の。それだけ世界中の人を惹きつける都市なのだろう。そういえば、このカテドラルに来る前、ピカソ美術館がどこにあるか聞いたブティックの店員がいて、とても英語が通じたので助かった、と思った女性がいた。ピカソを出てちょうどまたその女性の前で、タバコをくれ!と言われた。5セントコインを差し出し、1本くれ、と。その男性にタバコをあげて歩き去ろうとすると、その女性は店の前に出て、その様子をうかがっていた。なんかあったら助けてあげる!と……。考えすぎ?かもしれないが、やさしいではないの。そういう感じがいいのだ、この街は!

さて、カテドラルを出てライエタナ通りを上り、カタルーニャ音楽堂を目出した。この辺りで本当にまいってきたことが一つ。それはあまりにもの埃っぽさだ。喉は痛いし、特に目が限界に近いほどしょぼしょぼする。狭い道に車・バス、そして工事中の総攻撃。加えてゴミ清掃車までやってきて大変なことになった。どんどん歩くと行き過ぎたようで、また戻ってようやくカタルーニャ音楽堂に到着。ここは現役のホールで、コンサートなどのチケットの他に、堂内ガイドツアーがある。ここがカタルーニャ音楽堂なのかどうか、確信が持てなかった僕は、チケットブースに並んでいたおじさんに、「ここってムジカ・カタルーニャ?」と聞いた。おじさんは、Palau de la Mussica Catalana? あ、それならあっちだよと言ったような気がして、「そーなん、、、」と列を外れた。カフェがせり出したガラス張りの音楽堂。チケットはやっぱりあそこで買うのに間違いは無いだろうが、また戻って買うのもなぁ〜と、行くのを止めた。ガウディ以上に名声を集めたドメネク・モンタネルの最高傑作、らしいので後ろ髪はひかれたが、この時の「やめとこ」という感覚を信じた。ガイディング・ツアー8ユーロだからね。

そのまま大きな通りを左折して、昨日降りたカタルーニャ広場へ。そこからランブランスに入ってさらに南西に行く。バルセロナ現代美術館、マクバ(MACBA)へ。バルセロナ大学が近いので学生の姿が目立つ。ガラス張りの超モダンな造りの建物で、前のスロープではスケボーをしている。マウンテンバイクを倒して休んでいる。前も横も工事中で、その中でここだけ「今」も動いている。街中でローラーブレードをはいた若者をよく見るが、ここではスケボーの方が多い。このミュージアム、入館料は3.5ユーロ。面白い作品が多かった。ハシゴに布に、キャンバスは無限だった。人も少なく、展示の配置が絶妙のバランス。映像もインスタレーションも、確かに刺激的だ。なんてモダン!映画上映の席でゆっくり休んだ。

とにかくビールが飲みたかった。
ミュージアムからランブランスに戻り、派手な路上パフォーマンスに惹かれて席についたオープンカフェで、グリル・ビーフとバカでかい生ビールを頼む。中国人のウエイトレスで、味はいいが、とにかく風が強い。食べて、飲む。目の前の観光客がダラダラ歩く。日本人は、いない。バルサのユニホームを着た人が多いので今日は試合があるのかな。と…、チェックを頼むと19.8ユーロだった。ガーン。これはぼられたか?グリルのプレートが10ユーロだったからビールがサービスやタックスを抜いても7ユーロちょっとしている。1000円以上だ。やってしまった。結構、酔ったけど。

それから、グエル邸に行き、工事中…、前にあるホテル・ガウディも高級すぎだ。レイヤール広場で大きなメキシカン・コーンハットを見ながら、あんなんのどこがいいのやら…と。おみやげ物屋を見たり。疲れた。

雑誌「Pen」の特集にあった「Ras」というデザイン本屋に行って、近くの雑貨屋で2ユーロ、ポストカード2枚を購入。宿の前にあるキャンディ屋でビールとチョコ、2ユーロぐらい?を買って、宿に戻った。歩いた、歩いた。ほんま、疲れた。そのまま眠ってしまい、夜中に起きてシャワーを浴びる。ランブランスから大歓声が聞こえる。バルサ、勝ったのかな。深夜1時ごろまで大騒ぎは続いていた。



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