2006年5月4日(木)
3日目

バルセロナ


昨日はかなり中途半端な眠りだったが、結局ものすごく寝た。深夜の大騒ぎも、見に行こうかと迷っているうちに、布団にもぐりこんでいた。どこへ言っても困らされる「PROHIRIT FUMAR」の文字。そしてタバコマークに斜線。この宿はなんと…禁煙。3階のカウンターからひとつ階段を登り、踊り場のようなところに、このマークをみたのだが、気付かないふりをして吸い続けていた。

部屋に灰皿がないので、携帯灰皿やスプライトの空いたペットボトルに吸い殻を入れている。各部屋にあるNOTICEに……、読んでしまったら、タバコは吸わないでね、と。はぁ〜!だ。しかられるまで、こっそり吸う。昨日のベットメイクのあとも、特に何も言われてないし。1ユーロのチップがきいたか?んなことはない。タオル、かわってないから…。

日記に戻ろう。7時半、隣の部屋の人を起こしにきたフロント係の男性の声で、僕も起きた。隣…おそらく昨夜、夜中にカップル二人してなかよくバスルームに入っていた2人だろう。とりあえず顔を洗っていつでも出られるように準備をする。2日目ともなるとずいぶん勝手がわかってくるものだ。すべての用意を完了させてから、昨日の日記を書く。1時間、2時間とすぐに経ち、9時半ごろになるとベッドメイクのおばさんたちが騒がしくなる。僕までなんだか焦り、ちょうどコーヒーでも飲みたくなったので日記は途中だが外にでた。宿のすぐまえのカフェで、カフェ・コン・ミルクを飲む。なんだかヘリコプターがグルグル飛んでいた。

コーヒー、1.20ユーロを飲みながら日記を書く。入れかわり立ち替わりに人の出入りが激しい。相変わらず、英語はほとんど無理だ。まぁ、オラ、とグラシアスでのりきれるけど。カフェを出て地下鉄へ。タウヘタ・ディエス(T-10)という10回分の回数券を購入。6.65ユーロ。最寄りのCatalunya駅からL1にのってEspanya駅を目指す。が、L3(3号線)に乗ってしまったらしく、次に泊まった駅はLiceu。まぁ、これでも行けるのでそのまま乗り続け、エスパーニャ駅で下車。自分で開閉する扉、窓はコインの削りで描いた落書き。硬い、プラスチックのシート。だけど、この地下鉄を乗りこなすと、かなり行動が楽になる。

エスパーニャ駅を出ると、プラザ・ホテルや、見本市会館があり、その奥にカタルーニャ美術館が美しい。エアポートバスからみたところだ。どんどん、モンジュイックと呼ばれる丘を登る。風が、今日もすさまじい。見本市会館では、「Tourismo」、つまり旅行系のフェアをやっているらしく、そこら辺一帯からビジネスの香りが濃厚にただよう。

僕は赤い花壇を通り過ぎ、止まったままのマジカ噴水を超える。えらく登るなぁ。あまりにも荘厳で美しく、大きなカタルーニャ美術館の建物をみながらなので、近いように錯覚するが、いやいや、けっこう登る。昨日に比べて天候がいまいちであまりパッとせず、バックが青空ならもっときれいだろうに、と残念だ。登りきって見下ろすスペイン広場は、どこかで見たような感じもする典型的な美しさ。眼下にバルセロナ市街がかすんでみえた。サクラダ・ファミリアもむかって右に、トラアグバルもある。僕はさきにミロ美術館に行こうと、さらに坂道を登る。

どんどん登ってから人に聞くと、もっとあっちだ……、と。もう、この辺りになると“リターン”することにもなれた。だけど、オリンピック・スタジアムはこの上にある。なら、先にそっちに行くことにした。バルセロナ・オリンピック。この街を世界に知らしめた大会だ。鈴木大地が金メダルをとった。このスタジアムはフリーで開放されており、今でも現役。サッカーのクラブチーム“エスパニョール”のホームスタジアムだ。ここで、坂本龍一が指揮棒をふったのか…。僕は当時、16歳だった。

このオリンピックスタジアムの横に、サン・ジョルディ・スポーツ館があり、横の広場に大きなバスケットシューズのオブジェがある。それも真っ赤の。その奥には、オーディトリアムの斬新なデザインの塔(通信塔)がたつ。「Pen」の特集でみたぞ!こんなモダンなデザインの塔から、振り返るとカタルーニャ美術館のゴシックが緑に包まれるようにそびえ立つ。バルセロナ……、素敵ではないか!

オリンピック・スタジアムから北へ登って、そして降りると、ミロ美術館についた。小学生や高校生の団体とはちあって、相当に騒がしい。入場料は7.50ユーロ。僕はとにかくこのミロというひとが好きなのだ。彫刻、油絵、オブジェ。ミロのすべてがわかるといってもいい。「青」シリーズなど有名なものはないが、セルフポートレートやPaintingと名付けられた多くの絵に刺激される。感覚でとらえることの大事さや無限さを、ぼくはこのミロの作品から教えられたような気がする。館内にはカメラの上のフラッシュのところに斜線がひかれた看板があり、僕は都合よく「フラッシュ禁止」と理解した。そして、ビデオを回す。現にフラッシュをたいて撮影している人もおおかったし。彼らはいったい何人なのだろう?スペインの他の街から来ている人にもおもえる。みんなスペイン語だし…。ここでも怒られるまでいいかな、と言う感じだった。それになんと!カメラとって?と頼まれもした。オブジェの前に立つ2人に、チア〜ズなんていいながらフラッシュをたいてとってあげた。

このミロ美術館は開放的だ。2階の屋外にも、いくつかの「にくたらしい」ほどかわいいオブジェが並ぶ。バルセロナ市街も見渡せる。う〜ん、気に入ったのをいくつかあげようとしても、正直みんないい。オレンジも黄もモスグリーンも。とにかく【色】がいいのだ。そして絶妙な構図(フォルム)。みていて楽しい。ポエムという作品もよっかたな。ミュージアムショップもいいにはいいが、もうとにかく人が多すぎる。うんざり感で押しつぶされそうだ。社会見学の現地の子供たちもいるし。

ミロ美術館を出て、カタルーニャ美術館へ。なんと、今日はフリーだった。まず、昼もすぎてお腹がへっていたので、カフェへ。クロワッサン1.12ユーロ、フランスパンのサンドイッチ2.55ユーロ、カフェラテ1.16ユーロ。タックス入りで5.17ユーロ。満足、満腹。外側の重厚さに対比して中はモダンな造りで多目的な開放感あるホールにまず出る。両サイドにわかれた展示室は広く、彫刻と絵画がバランスよく配置されている。ここカタルーニャ地方に発達したロマネスク芸術、中世キリスト美術がずらーっと並ぶ。どれ、ということなく、これだけ並び揃えられると、圧倒される。キャンバスの大きな作品が多い。全体的に黒く、写実的。油絵ってこういうこと!と鎮座している。ただ、それだけではなく、ダリの肖像画やクアトロ・ガッツの店内にもかけられてあったRAMON CASASの“Ramon casas i Pere Romeu en un tandem”という二人乗りの自転車の絵や、JULI GONZALEZのあくびする女性の二つの絵など印象深い。1つは写実的に、そして隣には直線的にデフォルメされている。あとは壁画類。一つひとつ立体的に発見されたまま再現されるように展示されている。横には模型まであって、とてもわかりやすい。ここはとにかく目の保養。急ぎ足で有名なものばかり追うのではなく、ブラブラみながら目にとまったものの前でじっとする。どうせ絵の説明はスペイン語でわからないので。そういやミロ美術館だけには英語表記の説明があったな。

カタルーニャ美術館を出て、エスパーニャ駅へと下りていく。スペイン広場の向かいにロナウジーニョがモデルになった宣伝の看板があり、そこがラス・アレナス闘牛場。その奥にはミロ公園がある。が、闘牛場は全面改装(解体してるのではと思うほど)中で、ミロ公園もフェンスで閉ざされていた。そのフェンスが風で倒されていたけど。

もう、移動することにする。また地下鉄L3に乗って今度はPalau Reial駅へ。大学のエリアだけに若者が多い。地下鉄から出て、路面電車(トラム)の線路を超え、どんどん坂道を登った。

なんかおかしいな、とだいぶ経ってから思う。目指していたのは、FCバルセロナ、通称バルサのホームスタジアム、カンプ・ノウ・スタジアム。通りがかりの人に聞く。ボールを蹴るジェスチャーで理解していくれた。あ、それならあっちだよ、と。坂道の、ずっと下。え〜。

そのまま登ってきた坂を下って、砂地の大駐車場をぬけるとあった。世界でも有数の人気クラブチーム、バルサのホームスタジアム。ロナウジーニョの10番のユニホームをきた人を街中でよく見る。試合もないのに、スタジアムの前は大勢の人がいて、出店では列を作ってグッズを買いあさっていた。

僕はスタジアム・ツアー、大人10.50ユーロに参加。チケットを買って決められたルートを回る。完全に汗くさいロッカールームやバスルーム、(本当にホットバス/湯船がある)、チャペルや記者会見場、そして最上階の放送席まで。好きで好きでたまらないひとなら鼻血が出るほどうれしいだろう。ピッチへ向かう通路を抜けると、グランドに出る。「おお〜」と声が漏れる。

すり鉢状の高い観客席、トラックのないサッカー専用スタジアム。このピッチ上から一番上まで、それぞれシートに出て、あらゆる高さからピッチを眺めることができる。もう、こんなに綺麗なのを見せられると、是が非でも試合が見たくなる。まぁ、ゲームがないので仕方がないが。

それにしても、このクラブチームは栄光もちだ。並べられたカップの数も半端ではない。ふと気づいた。「あ、オレ、そこまでサッカー好きちごた、、、」と。

カンプ・ノウ・スタジアムを出て、グエル別邸に行こうと思ったが、足が重い。重すぎた。歩きッ放しなのだ。地下鉄でカタルーニャへ戻る。もう、ランブランスにはそうとう慣れたな。

宿の前で昨日と同じEstrella Dammというラガービール(1.20ユーロ)を買い、初日いったときと同じ女性だったので、またあめ玉をもらう。部屋に戻ると、隣で工事をしている。ここもかい?と辟易する。とりあえず、ビール、うまい!

午後7時ぐらいに宿を出て、夕食へ。ランブランス通りは今日も人通りが多い。フラメンコを見るために、レイアール広場に向かった。その一角にあるtobogan TAPAS VARIDASという店の席につく。

あせらなくてもいい。シエスタ。
この国のくもり空が、太陽じゃない多くのことが、
たとえば、パエリアが、なんとなく教えてくれる。

レイアール広場の一角で
オープンカフェの隅の席で、
Estrella Dammのジョッキがひとつ。

注文したパエリアを待っている。午後7:30。
まだ夜は始まらない。多くの店が8:00開店。
おそらく全部、隅々まで観光客で、というものの
僕もそのひとり。あー空腹。

パエリア。なんておいしいのだろう。シーフードをさけてわざわざチキンを頼んだ。この漁港の街で、だ。でも、この芯のある感じ、ピーマンやエンドウ豆のバカでかい版(そらまめ)、あとはサフランかな?はいってないか、基本トマトベースの味付けがいい。1人前のプレート(ピザのSサイズぐらい)に入って出される。一人で“うまい、うまい”とうなりながら食べた。料金はパエリア9.2ユーロ、そしてビールジョッキが2.7ユーロ。タックスを入れて12.73ユーロ。どうもこの辺りの客商売の人は、「コンニチワ、トモダチ」と声を掛けてくる人と、日本人は財布の紐がかたい!と毛嫌いする人と、両極端であるように肌で感じる。そして、そして、だ、ビール。昨日のあの店はやっぱりぼっている。あり得ないだろう、9.8ユーロのビールなんて。確かに量はちょっと多かったが、絶対におかしい。あーもー、いつまでも引きずるべきではないが、やられた、という感じ。

椰子の木が特徴だというレイアール広場をつっきって、「タラントス」へ。
ここはフラメンコショーのライブハウス。ガイドブックには、老舗とかかれている。現地の若者がたまっている。8時半からのショー開始ということで、少し早めではあったが行ってみた。タラントスのシャッターは閉まっており、隣のダンスショーの店はあいている。中はつながっているようだったので入った。と、まだだ、まだだ、でろー、とデカイ男店員に追い出される。カウンターにいた女性に「まだなの?」と思わず日本語で尋ねると、「はい、あと10分少々でご案内できると思います」と日本語がかえってきた。

表で待つ。開場になり、5ユーロを払って中に入る。小さなライブハウスだ。ドリンクは別料金だが、別にマストではない。前の方へ陣取り、ショーの開始を待つ。日本人は僕だけで、中国人3人組がいたかな。ライブ感!まさにこれが凄まじかった。

昔、厚生年金大ホールでフラメンコ(かなり有名なダンサー)を見たが、ここまで興奮はなかった。やっぱり小ささと、ギターの弦を弾く一つ一つの「ふるえ」のようなものを腰から感じるライブ感はサイコーだ。大きくわけて3部構成。まずは男性ダンサー。汗がすごい。カタカタカタ……。力強い。見物は最期、超高速の連続ステップで締めた。パッ!と決めて、ライトがパーン!とあたる。クーーールだ。思わず声が出た。ギター、歌う人、ダンサー(こえかけ)、ベースのリズムを取る人(箱のようなものをたたく)の4人+ダンサーという構成。ダンサー2人がひっこみ、次は歌。声たかだかに歌う。それが終わると、ついに女性ダンサーの登場。

腕の動き、体、本当にしなやかだ。ここは若手のアーティストがメインらしく、将来大物になるかもしれない。優しく静かなリズムから、グーっと盛り上がる。スカートをめくって足のステップを見せる。何となくだが、やっぱり女性の方が美しい。興奮した。全部で30〜40分のショーだが、本当に空間ごとどっぷりフラメンコに浸った。タラントスを出ても、あのリズムがしばらくのこった。

カタカタカタカタカタ。

フラメンコ!いい。

帰り、宿の近くのいつものキャンディー屋で水とアイス2.6ユーロを買う。さすがに店員(いつもあめ玉をくれる女性/このときももらった)が話かけてきてくれ、スペイン語は話せる?というので、ジョ・ソイ・スズキというと、スズキはシティ?ネーム?というのでネームだと答えた。へぇーだった。
まぁ、マクドナルドが都市名って思う人もいるかもしれないので。アリガトウ、といって店を出た。
宿に帰ってシャワーを浴びてねる。はやいもんで3日目終了だ。明日、ガウディを巡るぞ。



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