2006年5月6日(土)
5日目

バルセロナ〜マドリッド


朝、5:15に起き、顔を洗う。5時半にフロントの人が起こしに来てくれた。エアバスで空港へ。まだ暗い早朝6時前、ランブランスはフライデー・ナイトの続きで、そろそろ家路につこうとする若者で溢れていた。
少し、怖い雰囲気だった。
カタルーニャ広場の横にあるエアバス乗り場。なんと、すでに行列ではないか。ったく、どこへ行くにも「待つ」ことが強いられる街だなぁ〜。

6時発のバスが遅れ、6:15発と連続して発車した。バス代、3.75ユーロ。一番前の席に座ってうすあかりの差し始めたバルセロナの街に別れをつげる。途中、何がどうなって、あぁなったのか、車がひっくり返って逆さ向き、ひっくりかえったゴキブリが足をバタバタさせるような格好でたおれていた。サタデーモーニングは、フライデーナイトの名残。
喧噪が続いていたのだろう。

空港につきチェックインする。イベリア航空2715便マドリッド行き。22Fシート。空港内のカフェでクロワッサン1.15ユーロと、コーヒー1.20ユーロを食べ、書き残した日記を書く。
ゲート11。これからマドリッドに向け飛び立つ。
バルセロナを去るこの朝、日本から持ってきた本を読み終えた。「茶の本」。「われわれは心の安定を保とうとしてはよろめき、水平線上に浮かぶ雲にことごとく暴風雨の前兆を見る」。千利休がこの世を去る、そんな終わり方。秀吉との間にあった誤解が、彼を死へと。禅、なんてよく分からないが、この本は面白い。禅、なんて身近にないが、この本の諸々は確かに僕の中にある。禅、日本だな、と思いつつも、バルセロナの街にぴったりの本だったと、改めて思う。

バルセロナを発って45分、マドリッドに向けて高度をさげていく。
雲がものすごく綺麗な日だった。
ネットで43ユーロ、このシャトル便にドリンクサービスはない。別料金で売りにくるけど。

マドリッドにつくとメトロで市内へ。と、どのターミナルで下ろされたのか、メトロの駅のあるターミナル2にいくまでバスで移動。それも結構な距離だった。メトロの空港駅から乗り換えること2回、3つのLineをつかって宿のあるセビーリャ駅に移動する。1ユーロで市内にいけるのだ。1時間ぐらいかかるけど。それにしてもスペインの地下鉄は分かりやすいから助かる。

まだ朝の10時半ぐらいだったか、マドリッドの街はまだ眠っていた。土曜だしね。確かにまだ動き出しはしないのだろう。予約しておいたホテル・ビラールへ。セビーリャ駅から近く、バルセロナの時と同じくマンションの数階をつかったスタイル。フロントにいくと、もうチェックインできた。1泊25ユーロ。トイレ・バスは共同。なかなかしっかりしたところで、共有部、ロビーなど、綺麗だった。で、期待しつつぼくのアサインされた323号室に行くと……、まぁいいや、一泊やし、我慢するか、という感じ。ヨーロッパでのシングルというのは、なかなかつらいものがある。

ドアの開いているヘアがあって、中でヨーロッパ人の女性がベッドに埋もれていた。
……かわいい。

早速行動を開始する。駅から歩いてくるときに見たよさげなカフェでクロワッサン2つとコーヒー、それにHojaldresというミートパイ?のようなもの、しめて6.70ユーロ。1人だけだったが外でタバコを吸いながら…土曜の午前中、とてものどかに過ごした。本当に人が少ない。場所がら?それとも時間帯?あいかわらず多いのがカメラをかかえたヨーロッパから来た観光客だった。どーも、ドイツ人が多いように思う。イッヒ、イッヒとやたらに耳につく。カフェを出て、歩いてすぐのプラド方向へ。さすがに人も増え始めた。

サン・ヘロニモ通りを右折して、スターバックスの人混みを抜けプラド通りへ。まずは国立ソフィア王妃芸術センターに行く。ガラスのエレベーターが左右に2つあり、派手すぎない質素な外観。前の広場にはオープンカフェや何なのか不明だが白いテントがやたらと並んでいた。入場料は6ユーロ。2階と4階が主な展示(常設)室になっている。まずは2階へ。Ramon Casasなおバルセロナみたアーティストの作品を見る。一つひとつの部屋に番号が振ってあり、それにそって歩く。

『ゲルニカ』、心はそれをまっている。

ゆっくりと1つ1つながめつつ、だいたい有名な作家には一つの部屋がわりふられており、ピカソの作品が頻発するようになった。パリに行ってからの彼らしいシューレアリスムの世界。デッサンなどもあったが。やっぱりうまいな、と!出た。すごいすごいとは聞いており、自分の想像よりも3倍は凄いのだろうと予測していたが、そんなものとっくに超越するほど、圧倒される。

ついに、『ゲルニカ』をみた。

モナリザよりも最後の審判よりも、ぼくにとっては絶対に見たかった一枚。一枚などと言うには大きすぎる。ゲルニカ村の大虐殺を聞いたピカソが、パリ万博にむけ、アトリエに籠もって書き上げた大作だ。プリントされた絵では、ふんっ、いわゆるところのピカソらしい絵じゃないかと思うかも知れない。が、違う、全然違う。まず、その大きさ、縦3.5m×横7.77m(349.3×776.7cm)というこんな数値よりも膨張したデカさを感じさせる。展示の仕方もいい。縦ながい一室に余裕をもって展示されている。ぼくは思わず近づきすぎて、停止バーにふれてしまい、すかさず係員に「下がれ!」と言われて不機嫌になったが、詳細までずーーっと眺めた。モノトーンの世界に叫びがあり、同じ黒の中にトーンがある。一つの村で全滅されるまでの虐殺が成されたという叫び。絵の中のすべてが被害者だ。ゲルニカというタイトルの、その村の、一つ一つ。鼻が下にたれた「人」の顔が印象的だった。いやー、すごい。その一言につきる。

そのピカソの部屋に隣接して、ミロの作品が並ぶ。本なんかでみたことのある有名な作品が多い。スペインでもやはり、東京と同じく首都に集まるんだな、と思ったり。ダリだ。ここでの大きな収穫はダリの絵画が充実していること。少女が窓から外を眺める背景の絵、漆黒の中に浮かぶ男など。この人の肖像画は、顔の色がカラフルだ。4階に移動するとタピエスやイサム・ノグチなどが充実。スペインの絵画をここで一通り網羅できるコレクションだった。コの字型の展示スペースもなかなかうまく利用されている。結果的に僕はプラドよりも好きだな。やっぱり近代絵画におけるスペインの人のすごさは、舌を巻くばかりだ。1階には特別展「Adolfo Schelosser 1939-2004」が開かれていた。オーストリアで生まれ、マドリッドに住んだというアーティスト。「木」をつかったクラフトが多い。ここの展示もすごい。インスタレーションというのか、奥に広いスペースを眺めると、「飛んでいる」ような感覚を覚える。なんといっても『ゲルニカ』だが、ピカソもミロもダリもタピエスも、ほんと満足だった。

ソフィア王妃芸術センターを出て、プラド通り沿いにプラド美術館を目指す。本屋が店を並べ、そこに集まる人びと、緑に囲まれてなかなか素敵な光景だった。古本市はやはりいい。そこを抜けると、出た、と言う感じの荘厳なプラド美術館が現れる。絵画館としては世界一のコレクションを誇るという。中世ヨーロッパ、それもキリスト海外が多いので、なんとなくというのか、意外性にドキドキしたり、無意味にワクワクと、いうのがない。ただただ感嘆。エル・グレコにベラスケス、ゴヤにラファエロ、ルーベンスやムリリョなど。キリストも含めて「人」の絵が多い。一つ一つがお行儀よくおさまっているというか、高級ブティック的気品と落ち着きに「へぇ〜」「はぁ〜」という感想に疲れが増してくる。ぼくはゴヤが好きなので、その部屋でじっくりと時間を費やす。オーディオテープの日本語版があれば借りようかと思ったが、それもなく、かといってガイドブックをみながら「あさる」にはコレクションが膨大なので、サッとみて、目にとまったものに近づく。それを繰り返す。1階から3階まで確かにすごい量だ。全部見きれた自信はない。ただ、働く労働者などを描いた絵には「力」や「悲しみ」がにじみ出ており、目がとまる。中世から近代のこの辺りの絵は、全体的に「黒い」のがね、いまいちパッとしないのかも知れない(ぼくにとっては)

どこかに座って日記でも書こうかと思ったが人が多すぎてそれすらもままならなかった。

プラド美術館を出て、レティーロ公園へ。ほんと天気がいい。ここマドリッドでも、マドリッド・ビジョンなる2階建てのツアーバスが盛んに通っている。工事中の一角を抜けると、それはそれは、整然と整備された(植物園といった方がいいぐらい)公園になり、観光客の姿で溢れかえっていた。あと多いのが小・中学生の遠足組。きたない池でボートをこいでいる一角もあった。公園をブラブラあるき、またプラド通りに戻る。そこから宿の近くにあるカフェへ。ビールとパエリアを食べた。このパエリア、やられた。サフランばかりをきかせた、まるでレンジでチンしたようなしろもの。ビールとパエリアを合わせて11ユーロだったので、10ユーロ紙幣と2ユーロコインしかなったので、それを渡すと、「ムーチョ・グラシャス」と……。まぁ、そうなるわな。チップとしてうけとられた。

マヨール広場に向けて歩く。人、人、人、それもオール観光客。日本人なんてポツン、ポツンだ。このゴールデンウィーク時期にヨーロッパなんてツアー客ばかりで、そうそう個人客に出くわすことはない。マヨール広場も楽しげで、陽射しとビールがよく似合い、オレンジのパラソルが眩しかった。が、一人の僕にはあまりにも遠い借景だ。ビール(Mahou)と水、チョコを3.15ユーロで、最初コーヒーを飲んだ店で買い、宿に戻った。日記を書く。

ここはバルセロナとちがってテレビがあったので、それでハンドボールの試合中継をみたり、寝たり、お金の調整をしたり……、徒然にウトウトとうららに……。

そういやマドリッドの街や、宿の部屋(窓の外/禁煙っぽいので窓をあけてすっている)にも、白い綿ボコが目立つ。何だろう、これ?

何かよさげなものでもあれば食べようかと宿を出た。なんとすぐ隣に広場があって、なかなか華やいでいる。部屋にいても、やたら騒がしいとおもっていたのだが、これだったのか。ブラブラと歩く……、ほど空腹でもないし、部屋にタバコを忘れてきてもいるので。ので、中国人経営のおかし屋でスプライトとポップコーンを買う。なんと2ユーロ。ここにきて現地人価格というか、観光客プライスを抜け出せたような気がする。ヨーロッパ人がヨーロッパ内をこれだけ動いているという現状、コンビニでも進出すれば絶対に成功しそうなのに。スタバもこれだけあるしね。宿に戻ってシャワーを浴びて寝る。明日はいよいよスペイン出国。オランダだ。旅の残りもすくなくなってきた。



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