クルーズの時代
2006年11月12日
「時間」と「お金」があればしたいこと。この上位にくるのがいつも旅行だ。温泉というよりはヨーロッパ。憧れのハワイ航路は言い過ぎだが、イギリスの湖水地方にフランス・ロワールの古城、ローマの真実の口にウィーンのオペラ座。ゆっくり行ってみたいと憧れている人は多いはず。特に、団塊世代の大量退職を迎える来年2007年からは、その「市場」を狙って旅行会社が動き出している、らしい。少々、疑いながらではあるが。疑う?というのは、「さて、退職した人は、そんなに余暇というものを満喫するのか?そのまま働いてしまうのではないのか、、、」と。確かに、尊敬すべき団塊世代の方々の「働きぶり」には、そんな疑いは当然だろう。そもそも、1964年に海外旅行が自由化された日本で、この世代の方々はすでに大人。大学生なり、社会人なり、「海外旅行」とは無縁のところで生活していた人が多い。海外に行くのは、お金持ちがJALに乗ってツアーコンダクターの旗の後ろをついていく。お土産はチョコレート、金ぴかの置物。パスポートという響きすら少し特別だったかも知れない。

そんな人たちが、「よし海外旅行にでも行ってみよう!」と決めても、その憧れのイメージをかなえてくれるツアーは、希だ。ツアーの多くは値段を魅力に競走し、20,000円安いからとチョイスしたツアーは、郊外ホテルだったり、肝心なところにガイドがいなかったり。長距離をバスで移動した挙げ句、ドライバーがその日泊まるホテルの場所を知らない、、、こんなことになれば最悪だ。「ゆったり」とはほど遠いことになる。

そんなのは御免だと、高額のシルバー層向けツアーに参加したらしたで、「これだけ払ったのだから」と完璧なサービスを当然求める期待も虚しく、外国では日本の常識が、常識ではないというか、時間感覚やきめ細かさに欠けてしまうところがどうしてもある。ヨーロッパ10日間でひとり70万円払ったツアーでも、10本のうち1本ぐらいは、ロストバッゲージやピックアップバスの延着、渋滞、目玉だった博物館のストによる休館、果てはホテルのブックアウトなど、まったくもって何が起こるか分からない。海外旅行なんてそういうもの、と理解している人は「も〜、ブックアウトされたなら代替ホテルはアップグレードしてよね」なんてウインクの一つもできるが、まぁ、それは難しいだろう。

言葉も習慣も違う海外で、ツアコンと別のホテルに泊まるなんて、いざ自分がそうなったら不安な人も多いはずだ。朝食はどうすればいいの、レストランってどこなの、さっき聞いたけどさっぱり分からない。ようやくレストランに入っても、なんなのこの卵みたいな料理は、これも勝手にとっていいのか、などなど、「もぉ〜誰かやってよ〜」というはめになる。


旅行にはスタイルがある。
ヒッピーやバックパッカーなど「旅」をする人とは違い、あくまで1週間から10日前後の旅程なら、大きく、F.I.T.とパッケージツアーに分けられる。体力のある人は、エアーチケットと場合によっては1泊目のホテルだけを手配して、あとはみんな現地で探す。あるいは、インターネットで直接安宿にブッキングを入れる。これがF.I.T.と呼ばれる旅行者。もう一つは、朝食と昼食、観光バスで大まかなスポットを巡って、夕食を食べ、出発日の午前中だけ簡単なフリータイムがあるなどのパッケージツアー。要は費用云々ではなく、面倒かどうかでスタイルが分かれている。団体で行動するのが苦手な人、自分で全部やってしまいたい人などがFITで、昔ほど個人で行くから安くあがることはもうない。それだけパッケージツアーが破格の安さを誇っているということになるが。

このスタイルのうち、先述の「海外旅行あこがれ族」が選ぶとすればパッケージツアーになるだろう。が、これまた先述の通り、そのイメージを完璧にかなえてくれるツアーは少ない。

また、ぼくもその一人だが、とにかく若いうちにバックパックを背負ってあちこち歩き回った人でも、心のどこかで憧れてしまう「旅」がある。ファーストクラスでシャルル・ド・ゴール空港までいって、リムジンでカルチェ・ラタンに移動。そのまま「フォーシーズンズ・ジョルジュ・サンク」にチェックインして、夕食は「ピエール・ガニエール」で…、もう潰れたか、とにかくミシュランの三つ星レストランで優雅に時間を過ごす。メルシィ、なんて一番低い声で言ったりなんかしながら、ナプキンで口を拭く。

「海外旅行」に対する憧れは、旅の経験の多い少ないに関係なく、同じように持っているといっていい。大ざっぱに言えば、誰もが「海外旅行」には、ゆったりできて快適な「非日常的空間」があり、そこに居ながらにして絶景なところに運んで欲しいと願うし、ドキドキやハラハラも良いが、まったく別種の「リラックス」が欲しいと思っている。

そんな旅行のスタイルにばっちり当てはまるのが、「クルーズ」ということになる。
欧米を例にとると、団体旅行の時代があり、次いで、個人が勝手に旅するスタイルが主流になった。そして、後に何がきたか。宇宙旅行が近くなったとはいえ、まだまだ先の話な現在、余暇を過ごす旅行の主流といえば「太陽と海」で、それを優雅に巡る「クルーズ」が、もう10年以上も前から流行っている。少なくとも半年前から休暇を決め、ブッキングが入れられる欧米人のライフスタイルだからこそクルーズなんてものが最適なんだと否定的な人もいるが、日本でも、やはりクルーズがきているらしい。先日、旅行会社の友人が「日本でもクルーズはすでにきている」といっていた。

そっか、と思った。そう言えば、「飛鳥U」や「にっぽん丸」なんて言葉をここ最近やたら耳にする。インターネットで調べてみると、次々に出てくる「クルーズ専門サイト」。これは手探り状態だった時代から本腰を入れた時代になったと理解する。簡単に挙げると、JTBクルーズ郵船トラベル・旅悠人クラブツーリズム・丸の内倶楽部HIS・クルーズプラネット。日本発着の世界一周なんてものから、カリブ海やエーゲ海など、そこまでエアーで飛んで数週間だけクルーズに乗るなんてツアーもある。船内のサービスはプリペイドカード。バーに映画にプール。「にっぽん丸」では、何ヶ月ものクルーズ期間、一度として同じ朝食を出さないと聞いた。同じ「そば」でも何種類もあると。プラス寄港地では、その土地土地のランチが堪能できる。

でも船酔いが…と、さすがにそれを心配する人はいないかもしれないが、クルーズ船はデパートがそのまま大洋の上を移動するようなもので、「揺れ」は皆無に近い、らしい(ぼくも未経験だが)。さらに、世界最大客船の「フリーダム・オブ・ザ・シーズ(ロイヤル・カリビアン/ミキ・クルーズ)」は、スケートリンクからロッククライミングなどの設備があって、そのうちジェットコースターもできるんじゃないか?と思わせるほど「エンターテイメント性」に長けている。

「快適な空の旅を」という決まり文句をキャプテンから聞く度に、エコノミークラスでギューギューだった人、移動することと旅することを別々に考えていた人。そういう人にもクルーズはいい。

うん、クルーズに行きたい。「いつかは」とずっと思っていたが、その「時」がやって来たのかも知れない。年齢を重ねて、優雅にゆったりと、、、なんて思っていたぼくにも、「太陽」と「海」を満喫するのに年齢は関係ないし、優雅にゆったりとしたい憧れは、老若男女共通している。

クルーズ、訳すと周遊観光船。大洋を滑りながら、地球を体感したい、と思う。



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