パリで活躍したレオナール藤田。帰国後は藤田嗣治として、
数々の名作を残している。私の好きな画家の一人だ。

今回の展覧会は、公式ホームページによると
彼の芸術を、7つの視点(情熱)、
「自己表現」「風景」「前衛」「東方と西方」
「女性」「子ども」「天国と天使」で紹介するという。

しかも面白いのは、
東郷青児、川島理一郎、海老原喜之助など、
藤田と関わりの深い日本人画家9名の作品を第二部で展示しているところ。

5階から順にフロアを下りながら
テーマごとにまとめられた藤田の世界を堪能する。

まずは「自己表現」。
数々の自画像が並ぶ。藤田の作風からは意外に感じる影が強調された
「仕事をする自画像」。
フォルムのかわいらしい猫の「白猫」と
目に勢いのある威風堂々とした「虎猫」。
藤田は猫と共に描くことが多い。
特に「画家の肖像」(1927)は、猫の表情が非常によい。
「メキシコの旅の綴り帳」は興味深い。南米旅行中の藤田が
メキシコで書いたメモ。色が、ぐっと南米だ。
自画像の中で個人的に一番好きなのは
「君代のいる自画像」。コミカルで柔らかい白を使った「煙草」もいい。

風景への情熱は、
「雪中のヴェールの女性」が見事だ。表情、色合い、全てが好みだった。
「犬を抱く女性と楽士」と「女性と天使」は大きな作品。
藤田の作品でこれだけのサイズのものは、あまり見たことがない。
「モンゴル、ハイラルの風景」は、モンゴルに行った者なら納得の色合いだった。
全体の色味、とくに雲の感じが素晴らしい「ブルターニュ、レスコニールの家と人」、
ザ・フジタを思わせる、柔らかい色味と少女、そして雪が素晴らしい
「おやすみなさい、雪中の猫といっしょの少女」、
つばめが音符のように並ぶ動きを感じさせる
「石垣の上野子どもたちと燕」。
あまり風景画の印象がなかっただけに興味深かった。

前衛へ挑戦した頃の藤田の名作、「椅子の上でデッサンをする若い女性」は
キュビズムで、藤田にしては珍しい作風。

続いて東方と西方というまとまりでは、
東洋のダンス、くせになるタッチで描かれた「鳥のいるダンス」、
パリの前衛的な構図に東洋の要素の入った「酒」、
そして、これぞ藤田と見事に調和した
「お茶をする3人の娘たち」と続いていく。

藤田=女性、しかも乳白色。
女性への情熱は、非常に強かったのかも知れない。
これぞ藤田の乳白色、非常に独特の風合いで描かれた「友達、ユキとマド」、
髪まで柔らかい「座る若い女性(マリー=ベルト・オーランシュとされる)」、
ガラスに入れられて展示されていた
「横たわる女性、水槽と魚たち」は、後ろの水槽の中も不思議な世界観だった。
目と鼻と唇、タッチも美しい「若い女性(ジャクリーヌ・バルスコッティ=ゴダート」
は、個人的には一番好きだった。
ちなみに、「立つ裸婦」や「すわる二人の裸婦」では、腹筋が強調されていた。
猫の表情は、藤田独特のものがあり、
「Y夫人の肖像」で完成型をみたか。

藤田を始めに知って、魅了されたのは子どもの絵。
今回の「子どもへの情熱」の一角でも、魅力的な作品が並んでいた。
まずは、意外な感じを受けた「二人の軽業師」、
猫がカワイイ「ミルクを飲む猫がいる食卓につく少女」、
そして、今回の中出個人的に一番好きだった
「雪中のフードの少女」などが続く。

「猫と少女」(1950)、「猫と若い娘」「猫と少女」(1951)の三枚が
並んでいるのが特別だった。どれも表情が素晴らしかった。
色がない分、見る者に迫ってくる「布帽子の少女(パンとミルクを持つ)」も
非常に良かった。「つばめと子ども」も好きだった。

「放浪者(『取るに足らぬ職業は稼ぎが少ない』)」の連作は
どれもオリジナリティがあって、見ているだけでストーリーを感じた。
余白の妙の「誕生日の軽食」、
ちょっと感じの違う少女を描いた「3つボタンの福の少女」、
左の余白、手の大きさが印象的な「青い服の少女」など、藤田は少女の絵がいい。

最後、宗教色も強くなった「天国と天使への情熱」は
フランスが認めたレオナール藤田の世界観が広がる。
フジタの描く宗教画と言えばこれ、と思わせる「聖誕」、
金バックでも女性の透明感が素晴らしい「ヴェールの若い女性」、
母と子のうつむく角度が同じで構図が見事な
「子を膝に乗せる母」、
色の使い方が特別に見事な「モンマルトルの丘の聖女たち」など。
こういう絵は始めて見るかも知れないとおもったのが
「キリストの頭部」。
まだまだ藤田嗣治の世界は深い。

そして、第二部。
藤田と生前、関係の深かった画家の作品が並ぶ。
色の深さ、どんよりとした雰囲気を見事に表現した
川島理一郎の「パリの花市場」、
SOMPO美術館といえば、という画家、東郷青児の作品が多かった。
そして、個人的に、大好きだ。
こんなにも強い自画像、赤と影と白目「自画像」、
東郷青児っぽさか満開の名作「子供」、
見入ってしまった「ベッド」などなど、中毒性のある作品が並ぶ。

独特のタッチで描く岡鹿之助は、
「魚」「積雪」「城」が並ぶ。魚は忘れられないし
積雪は、彼のタッチにベストマッチだった。

藤田に近い世界観の高野三三男は、「きつねと少女」がとてもよかった。
高崎剛の「サーカス」は面白く
田淵安一の「花の中にまた花が」は、大胆な色の使い方が見事だった。


以下の画像はすべて
展覧会公式ホームページより。






























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LES 7 PASSIONS DE FOUJITA
藤田嗣治 7つの情熱

@SOMPO美術館(東京)
2025年5月30日(金)