日本の国産旅客機と言えば、YS-11というのがある。いや、正式にはあった。どこか新幹線のゼロ系に似た「むかしむかしのレトロ」な感覚を持った飛行機だ。「輸送機」の「Y」と、「設計」の「S」をそのままローマ字読みして頭文字をとった略((財)輸送機設計研究協会の略)。日本・放送・協会から「NHK」にしたような、なんとも昭和な香りが充満する代物だった。初飛行から40年以上が経ち、今年、採算悪化で生産中止に追い込まれた。

そもそも、日本という国は、列車にしても船にしても、もちろん車やバイクなど、交通機関や「乗り物」系はほぼ100%国産で賄われている。のに、飛行機だけが国産でないのは、戦後、アメリカによる航空機開発禁止が課せられていたからだ。(戦闘機に技術転換するのを防ぐため)

その禁止がとかれたのは1962年。当時、国家プロジェクトとして優先順位が高かったのは新幹線や高速道路で、多くの予算が投じられた。その隅っこで?少ない予算の中、「飛行機作り」に奮闘してようやくできたのがYS-11だったのだ。

そうこうしている間に、世界の空はジェット機へ。そしてジャンボ・ジェット、果てはコンコルド(超音速旅客機)へと向かっていった。エアバス社とボーイング社。この欧・米を拠点にする二大メーカーが「次」を競って研究開発を重ね、速さ・コスト・耐久性・安全性など、どんどん安定した機体を世に出していく。そんな中、旅客機丸ごとの生産はなくとも、主翼や尾翼、エンジンなど、下請け業者として日本のメーカーは確かな技術力を武器に割り込んでいった。今現在、空を飛んでいるボーイング社などの旅客機も、尾翼から機内のエンターテイメント装置まで日本製というのは珍しくない。

と、こういう現状で、、、本題である。
先日、経済産業省は20億円にもなる予算をつぎ込んで、国産のジェット機開発に当てると発表。2012年の運航開始を目指すというのだ。これを読んだとき、「おらが村にも高速道路を!」というアレに似てはないか?と思ったのは僕だけだろうか。先述の「現状」を補足するなら、今、世界で一番の売り上げを誇るエアバス社は、それまで欧州大陸内の移動に照準を合わせた中型機の製造をメインにしていたが、超大型のスーパー・ジャンボ・ジェットの生産を開始。総二階建てでゆとりのある空の旅を提案している。一方、ボーイングは、一気に大人数を運ぶ時代は終わったとばかりに、低コストで身軽な中型機を開発。これら、「次世代」旅客機が元気なアジア系の航空会社などから大型注文をうけているのだ。特に!ボーイングの次世代機787は、全日空からの大型注文(50機)を受けて、正式に生産が決定したという。今さら、国産のジェット機を作ったところで、経営的先行きは大丈夫なのかと不安だったりもする。半官半民で始めたYSは失敗しているだけに、そこがとても気がかりだ。

さて、この国産ジェット機。朝日新聞の記事によると、「座席数は70〜90席。丈夫で軽い複合材を使うことなどで、燃費効率を従来機より約2割高める」らしい。目新しいことは……、ゼロだ。

それはボーイング787でやっているのではないか?それもそのはずで、このボーイング社の次世代機には、日本の企業が「下請け」ではなく根幹にまで割り込んで開発を進めてきた。その、同じ企業が国産を作ろうとしているのだから「ネタ切れ」感は否めない。やっぱり、どうしても日本製でやりたいという、見栄というかプライドというか。それが先行してはいないか?あまり生産的とは言い難い。

とはいえ、(どっちやねん、というつっこみ、わかります)、
僕はそんなことにぎゃーぎゃーと目くじらをたてるつもりは毛頭ない。そりゃ、メイド・イン・ジャパンでやってくれるならその方がいいし、なぜかしら「トヨタ」が世界一の自動車メーカーになると聞けば嬉しかったりする。

だからこそ、つくる以上、日本っぽい何かがこの国産ジェット機には必要だと思い、うーうーうなりながら「軽自動車」と「ハイブリット」を思い浮かべた。例えば、小回りがきいて、ヘリポートぐらいの敷地で離発着が可能なら、空港までの悪いアクセスに悩むことはないし、東京・名古屋間ぐらいの距離でも低空飛行で移動が可能なら新幹線よりも魅力だ。そんな「軽」旅客機なんていうのも一案だ。また、騒音がゼロ、風力で飛んでしまうような「エコ」旅客機なんてものもある。これらが生産ラインに乗れば、十分強みはあるし、逆にレクサス的な発想で、全席ビジネスの高級志向に走ってもいいかもしれない。

とにかく、「おおっ」といわせるキャッチーな何かを持った「強い」国産ジェット機を、どうせ作るのであれば願いたいものである。そういう、エアバスやボーイングにない、日本製だからこその何かが、広がりを見せる航空機市場に対して大いにアピールになるかもしれない。インドや中国など、国土の広い急成長国は、今、国内線航空会社でひしめき合っている。もちろん、そんな航空会社はすでに一通りの大型発注は終えている。でも、それでもあえて注文を出そうというのは、相当な魅力が必要だ。

どうも、これは勝手な印象だが、「国産つくりました、だからジャルさんアナさん、お願いします」的な暢気さがあるように思えて仕方がない。国家予算が投入されると、そういう危険性をはらむのだ。ロケットにしても…、まぁ、それをここで記すとややこしいのでいいが。

日本の確かな技術力?とやらを、ふんだんに盛り込んだ国産ジェット機を、世界の空に飛ばしてみる、ぐらいの「高度経済成長期」魂の勢いで、実現させてもらいたいものだ。「軽」とか「エコ」、誰もが考えつくがなかなか実現できない、次の次の旅客機として、運航出来る日がくれば「サスガ」だ。



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国産旅客機
2006年8月27日