サンクトペテルブルグの美術館で、『ダンス』を見た時、
美術の教科書で見ていたものとは別物の、なんというか
「子供でも描けるやん」的な感想が吹っ飛び
キャンバスの大きさ、そして一人ひとりの線、色、背景の青に惹きつけられた。
そして対面の『ミュージック』が圧巻だった。

それからマティスの絵、彫刻、切り絵などを見る度に
好きだなぁ、という感情が湧き。

今回は約20年ぶりという大回顧展。
マティスの人生を一気に俯瞰できる圧巻の作品数で構成されている。

特に、最後の集大成『ヴァンスのロザリオ礼拝堂』は
動画も含め素晴らしかった。

まずはフォーヴィスムの作品から始まる。
『ベル=イル』は淡い春のようなイメージ。
カラフルなのに沈んだトーンで迷いの中で描かれた『自画像』は目が行く。
アトリエから見た明るいイメージを白を中心に華やかに描いた『サン=ミッシェル橋』。
目力が凄く青のイメージの『ベヴィラクアの肖像』と圧巻の『豪奢、静寂、逸楽』。
彫刻のデッサンのような『横たわる裸婦T』や作品の習作が並ぶ。

ここからラディカルな探求の時代へ。
『金魚鉢のある室内』は名作。戦争中の暗い室外の景色の中で金魚の赤がぐっとくる。
この頃、窓を多く描いたマティスの作品が並ぶ中で、
『コリウールのフランス窓』は黒一色、戦争。
一転、『窓辺のヴァイオリン奏者』は素敵だ。シンプルな構図の中の色合いがベスト。
個人的には『白とバラ色の頭部』が好きだ。
これぞ名作『グレタ・プロゾールの肖像』に続いて
『オーギュスト・ペルランU』の構図と言い、表情といい、
そして胸元の赤のピンが、黒の中であざやかだ。

彫刻作品も多く、『アンリエットT』は、頭部の膨らみがすごくある種の完成型。
その奥には、背中を探求した畳一畳ほどの大きな作品が4つ並ぶ。

人物を描く作品の中で、『アンドレ・ルヴェールの肖像』は、
左目の描写が作品としての厚みをアップしている。

『ピアノの前の若いヴァイオリン奏者』は、上手いマティスの絵。
白黒でお手本のような画の中に、ぐっと惹きつけられる。
『樹々』は、さすがに私でも描けそうだが
『赤いキュロットのオダリスク』はまったりしつつ重厚な色がすさまじい。
『グールゴー男爵夫人の肖像』はすごい存在感だ。
赤の中の石膏の白が印象深い『石膏のある静物』。

『夢』は、すばらしい構図に加えて、非常に気持ちよさそうな作品。

個人的に彫刻の中で一番好きな『貝殻のビーナス』は、簡略化されつつ足に特徴。
左肘の直線と太ももの丸みの対比が印象深い『座るバラ色の裸婦』。
『鏡の前の青いドレス』は、ドレスの膨らみと豪華なフォルム。
梨のポーズの女性?『ラ・フランス』の人参もシンボリック。

木炭の目紙で裏打ちした紙に描いた『自画像』は、自分を直視したどアップ。
タイトルも構図も色合いも全部がマティスだ感じさせる『立っているヌード』が好き。

今回の展覧会で中心的な役割をもつ
『赤の大きな室内』。窓のように壁に掛かる画の世界観が素晴らしい。
個人的には、この赤よりも『黄色と青の室内』の方が好きだ。
絵の前にたって、黄色も青も、ものすごく深みと軽みがあり名状しがたい素晴らしさ。

大きな作品の少ない今回の展覧会の中で、
切り絵の『オセアニア、空』と『オセアニア、海』は存在感を放つ。
そもそも晩年の切り絵の作品群が、どれもすごいが
マティスならではのラインを持つ『ジャズ』はどれも色味が素晴らしい。
個人的には『カウボーイ』が一番好きだった。

最後の部屋は、集大成の作品へと入っていく。
無駄なしのシンプルの最高峰『アンフォラを持つ女性』、
かっこいい切り絵『オレンジのあるヌード』。

最後の最後、マティスが人生の集大成とした『ロザリオ礼拝堂』
とくにファサードのデッサンは、しらばくぼんやりと眺めてしまう。

これだけの作品が、すべて一人の人間が残したのか、と思わせるほど
人生をかけて探求を続けたマティス。
東京にこれだけ集まってくれたことに感謝しつつ、後にする。





















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Henri Matisse: The Path to Color
マティス展

@東京都美術館(東京)
2023年7月15日(土)