直木賞受賞作の壮大なストーリーを映画仕様に仕立て直した一本。岩手から熊本までの旅の道中の壮大な出会い、軌跡、奇跡、現実、リアル。少年と犬から始まるこの物語は、その少年と犬の前世にまでさかのぼることができるのではないかと思わせるほど時間の幅がたゆたっている。東日本大震災と熊本地震。この壮大な1本道をつないだ時間と空間の流れが、見ていて心地よくさえ感じる。多聞という1匹の犬との出会い。それは、出会うべくして出会った崖っぷちの人たち。生と死を強烈に感じさせられた。
岩手県で、少年と出会った犬の多聞。前世からのつながりがあるかのように気心が通じ合う。そして、東日本大震災で、祖母と飼い主を失った少年と犬。犬は、岩手から南へと下って仙台へ。そこで、窃盗団のドライバーという汚れ仕事をする青年と出会う、その青年一家の、痴ほう症の母と姉。ここもまたぎりぎりの性格で、犬が救いとなる。窃盗団の現場へと手を染め、仲間の裏切りで生死をさまよう青年。家を追い出され、犬の多聞の行方も分からなくなる。
舞台は滋賀県へ。琵琶湖がまぶしいそんな街でデリヘルとして働く女性。殺人を犯し、死体を山中に埋めているところで犬に出会う。彼女の人生も壮絶だった。幼いころから母が連れ込んだ男に襲われそうになり、彼氏に裏切られ、体を売って生活をして、挙句、殺人。犬と一緒に西へと向かう。仙台では、南の方へ、滋賀では西の方へ。つまり、日本列島を「上」から「下」へと旅する。
多聞の「大切な人」へともどる旅。自首する女、刑期を終え、出所するのを待つという青年。そして、犬の旅路。物語は衝撃的に展開していく。女が自首した日、青年はトラックにひかれて死ぬ。多聞は、一匹で西へと向かう。青年は天国へは行けず、犬と一緒に西へと向かう旅に。島根で末期がんの老人と暮らす。その老人を看取った後、少年の下へ。
少年は震災のショックで言葉が離せなくなっており、母親の実家のある熊本へ移住していた。岩手から見て、南であり、西である熊本。そこにいる少年にたどり着くまでの犬の旅。熊本で、少年にあった多聞は、少年と家族に笑顔をもたらす。これまでの旅路で出会った人たちを元気づけたように。
そして、熊本地震が起こる。少年をかばって犬が死ぬ。ざっとあらすじをたどれば簡単できれいすぎるが、この少年のその後を、出所してきて工場で働くようになる女のその後を、考えると、胸の中にいる「犬」と「青年」がグッとしたりもして。見終わって、なんとも言えない感情をもたらす作品だった。
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少年と犬
The Boy and the Dog
2025年(日本)
監督:瀬々敬久
原作:馳星周
出演:高橋文哉
西野七瀬
伊藤健太郎、伊原六花
一ノ瀬ワタル、江口のりこ
手塚理美、柄本明、斎藤工 他