単なるホラーでゾンビ物、ありがちな感染系のパニック映画でしょ?と言われれば「はい」と肯定はする。が、単なるというところでしつこく反対したいほどの出来であることは間違いない。それは、映像も、音楽も、ストーリーも。

ダニー・ボイルとアレックス・ガーランドは、監督と原作者として「ザ・ビーチ」でコンビを組んで以来。ぼくはアレックス・ガーランドの本が好きなのでかなりそう言う意味での加点があるのは認めるが、この作品、その加点を差し引いてもなかなか楽しめると思う。

「たった28日、4週間。一ヶ月で、未来は変貌する可能性を秘めている」ということ。病室のベッドで目覚めた男は、人気のまったくないロンドンの中心、ビックベンを見渡す橋の上で叫ぶ、「ハロー」と。
誰かいるか? ダブルデッカーが横倒れになっている。あんなに騒々しい大都会に、響き渡り木霊する男の声。ハロー(ハロ〜、ハロ〜」。ゴミが散らかり、一体どうなっているのかと混乱する頭の中で、それでも男は散らばっているボンド紙幣をかき集める。

世界は豹変していた。
感染者が狂人化して、正常な人に噛みつく。噛まれると狂人となって、また誰かを狙う。残り少ない「正常な人」。ある親子は完全武装でフラットの一室にこもっていた。これが「親子」であるという個人主義。

軍の用意した避難所があることを突き止め、そこへ向かう正常な人グループ。明日は我が身か、隣の友は明日の敵か。精神安定剤を服用してぐっすり眠っているように見える女も、右手には鉄の棒を常に握りしめている。そんな、世界。

うわ〜、きゃー、ぐえ〜。そんなシーンの連発で音響が拍車をかける。ギリギリまで迫る感染者、そういう時に限って車は故障し、直してるとネズミの大群が出てきたりする(なんでやねん)。んーっと息が詰まって、ギリギリで逃げ切る。映画のお約束もしっかりある。

軍の避難所に着いてからの展開が、むしろこの映画の主題ではないか、と思う。それは、結局、敵はウイルスでも、感染した狂人でもなく、人間同士。それも正常な人間(軍人)が、最後の「敵」になるということ。つまり、人間とは、殺し合う動物である、というテーマ。

ダニー・ボイル監督の作品は、往々にして「やり逃げ」感が否めず、この映画にそれはないかと言われれば首を傾げる。が、異常未来だと安心して映画の中のエンターテイメントに酔いしれている「現代」の世界は、そうやってやり逃げしないと直視できないところまできているというか。「ザ・ビーチ」でも同じだが、人間が集まれば争いや裏切りが起こるということを、こういう形で示しているのだろうと思う。



→ CinemaSに戻る


28日後.....
28 days later

2002年(イギリス・アメリカ・オランダ)


監督:ダニー・ボイル
脚本:アレックス・ガーランド
出演:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン他