冒頭、茂の乗ったゴミ収集車が行き止まりにで立ち往生するシーンから始まる。北野武作品三作品目。「その男、凶暴につき」で鮮烈な暴力を描いた監督の、ラブストーリーかよ、と敬遠する人も多いとは思う。耳の聞こえない青年とサーフィンという「っぽい」設定がそうさせているのだろう。が、この作品は「人」のゴミを集めながらも、なお「行き止ま」るような、そんなストーリーなのだ。

あの夏、いちばんしずかな海で、
一番熱かった思い出の写真を、ボードに貼って海に流す。

ボードを抱えて海に走っていく「いつも転ぶ青年」とその彼女。
彼女は、はっさくを剥いてもらっている。

茂の服を海岸でたたむ恋人が、全く他人の服をたたんでおり、小石を投げて知らせる茂。うまくいかなくなって恋人を迎えに行くとき、二階の窓から靴を放り投げて知らせる茂。

「こんなの、おもしろいじゃん」と、北野監督がその場で思いついたのであろうシーンが散りばめられている。

ボードを抱えて海辺を歩くシーン。久石譲の音楽は、オチこぼれ高校生が二人乗りで国道を駆け抜ける時にもぴったりと来るが、この海岸沿いのメロディもいい。

12,000円でボードを売った店長がやさしい。ボードに見せられた凸凹コンビの青年二人が可愛らしい。軽トラの運ちゃんが警官と喧嘩するところもおもしろい。そして何より、同じゴミ収集員の先輩のおじさんが、なんとも味があり優しい。ゴミ収集車を止めて、その横でタバコをポイ捨てをするところなど、ぼくは好きだ。

サーフィンと恋愛。そこに「夏」なんてタイトルがつくほどに、北野監督は映画っぽい映画を撮ろうとしたのだと思う。最近の完成された北野ムービーにいくつまでの、避けては通れない葛藤と、しかしどこまでも北野流なその演出と。それらがメルティングした1本である。



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あの夏、いちばん静かな海。
1991年(日本)


監督:北野 武
出演:真木 蔵人、大島弘子、河原さぶ