太陽のない暗い「夜」の世界で育った少女と、ダクトの中をさまよい続ける少年。被害者の息子と加害者の娘と思われていた「ふたり」の接点。

一日中沈まない「微かな」光。白夜。を、生きた二人の物語。

ベストセラーの小説、そしてテレビドラマとしても好評だったこの作品を映画として完成形に至らしめたのは監督の手腕か。とは言うモノの、私は原作もドラマも知らなかった。純粋に映画として、この作品に触れ、怒濤のラストを迎える中で、どっと気持ちがあふれ出した。いい映画だった、と思う。

質屋の主人が殺された。それも、廃屋のビルで。第一発見者の「こども」たち。質屋の奥さんは従業員と浮気。それを「見ていた」息子。鍵のかかった「2階」から垣間見た大人の世界。彼を救うことができなかった父親が、買っていた娘。少年と娘の友情。夜の中で、お互いが見つけた「光」。少女を、苦しめていたのが自分の父親だと知った少年が犯した最初の「殺人」。

切り絵、風と共に去りぬ、アマチュア無線。モールス信号。二人だけの時間が、二人だけの中で成立していく。日が昇り、沈み、そうやって繰り返される「世間」とは違う世界でのこと。

少女・雪穂には「人」を惹きつけて放さず、吸い尽くしてしまう力がある。その少女をぼんやりと照らし続ける少年・亮司もその「被害者」の1人だったのかも知れない。が、亮司にとっても、そうやって「照らす」ことで生きてゆけたのかも知れない。

サスペンスとして物語が完璧であることは原作者から言うまでもないが、映画の脚本としても、非常にうまく描かれている。雪穂が生きていくために「虜」にしてきた人たち。その後ろにいつもいた亮司。お金になるためなら、何でも得る。自分の身体も売っている青年の姿。

ある家に嫁いだ雪穂は、まずは主人を、そしてその家ごとを吸い取ろうとする。新しい店を出す。「R&Y」(りょうじ&ゆきほ)。その店のオープンを前に

「この店が出来れば新しい私になれる」。

雪穂はそう言う。その店のオープンのために犯してきた数々の殺人・犯罪。それをリセットして、雪穂が新しくなりたかった姿とは?

もちろん忘れてはならないのがベテラン刑事・笹原。出世とは別に単独で質屋主人殺害事件を追う姿。定年してから行き着く「真相」。彼が掴んだのは雪穂の「本性」と、彼女を微かに照らし続けていた白夜、亮司の姿。

笹原がラストに言う、亮司を守りたいという言葉は、亮司にとって何事にも代え難い一言だっただろう。ビルから飛び降りる亮司の背中を押したのは、そんな「安堵」だったのかも知れない。

一日中沈まない微かな太陽。亮司という存在を無くした雪穂は、日が沈みそして昇る「普通」の世界で生きてゆけるのか。

映画のラストシーン。幼い頃の雪穂と亮司が畦道で遊ぶ姿。あの時、太陽は、なかったのか、あったのか。を考えながらエンドロールを見る。

なんとも最後まで考えさせられる作品だ。



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白夜行
2011年(日本)

監督:深川栄洋
原作:東野圭吾
出演:堀北真希、高良健吾、姜暢雄、船越英一郎、戸田恵子ほか