終わって、横の席の妻を見ると泣いていた。そんな家族の物語。是枝監督の真骨頂、家族の物語を、とても静かに、そして丁寧に描いた作品。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞。是枝監督とカンヌと言えば、「誰も知らない」で柳楽佑弥が主演男優賞を取った衝撃が思い出される。それから14年、ついに最高賞に上り詰めた。

物語は、万引きをする親子のシーンから始まる。目力のある子役、城くんが魅せる世界感とリリー・フランキーがアンマッチだ。そこがいい。本当の親子ではないことがしっかりと分かる。大都会東京、その中に埋もれるように建つ平屋のボロ家。年金をもらう祖母、そして夫婦、そこに若い女性と少年という「家族」がひしめき合って暮らしている。例えば、戦後の混乱の中の貧しさというものではない。確かに、今の、「日本の姿」を映しだしている。区の職員が樹木希林に状況を伺う。支払われる年金には、そこに4人もの人が暮らしているのを知らない。日雇いの夫。町工場でパートをする妻。学校に行けない息子に体を売る少女。どこからどこまでが「きめられた」のかが曖昧な是枝演出が光るのは、名優達のアドリブにあるようだ。劇場のスクリーンいっぱいに映し出される世界が、ヒリヒリと痛むほどにリアルだった。

ストーリーを追えば、女を買いに来るしがない男性が、その女の秘密を共有し、見捨てられ、金蔓にされた母のところへ転がり込む。そして、可哀想な男の子と女の子を拾う。人のことを心配している場合ではない家族が、他人のことを思いやりながら暮らす。余裕がないので、言葉は厳しい。そして、とても雑然としていて汚い。なのに、求め合う感情がとてもピュアなことに、人の想いが杓子定規で、とても決めつけられないことを示してくれる。是枝監督も、作品の中で何も決めないし、何も言わない。ただ、観ている側に感じろと言っているように思う。

樹木希林が死ぬ。ビーチで、痛んだ膝に砂をかけながら、自分の人生をたった一言、つぶやくようにして。そこから、家族ではない集団生活の、だけど家族という繋がりにしがみついてきた者たちの崩壊が始まる。

少年は少女を助けようとする。「家族」はその少年を見捨てて逃げようとする。言葉が異常に少ない中で繰り広げられる日常が、ああ、例えば私自身の明日だとしても不思議ではない、と思えてくる。そして、その明日に向かう私自身を投影して、なんとも言えない気持になってくる。そうしたら、すーっと、バスで施設に戻っていく「息子」を追いかける「父親からおじさん」にかわった男の、彼が走って追いかける時間と気持が染みこんでくる。

キャストが素晴らしい。そして、この演技されない演技の連続で出てきた力が、世界を動かした。まさに、これは、やはり名作だったと、観ている者に思わせてくれる。

柳楽佑弥のように、また、この城桧吏という少年も、俳優になっていくのだろうか。


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万引き家族
2018年(日本)

監督:是枝裕和
音楽:細野晴臣
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優
   城桧吏、佐々木みゆ、樹木希林ほか