アスペルガー症候群。人とうまくコミュニケーションがとれず、社会に適応しにくい、自閉症の一種。一見、「普通」に見える彼ら、彼女らは、社会の中で孤独だった。数学の天才・ドナルドは、ある会社の面接で「これからのプラン」を聞かれ、バーガー屋へ行って、洗濯をすると応えた。彼の「不」適応を決めた瞬間だった。
孤独な人達の「集い」をドナルドが発起人として立ち上げる。同じ病気で苦しむ人達が集まり、話し、笑い、過ごす。
タクシードライバーの職に就き、何度もクビを重ねてはタクシー会社を転々とするドナルドに、ある日、救世主が現れた。「君しかいない」と思わせる相手、イジー。彼は彼女に恋をした。「言葉にできない」感情と共に。
イザベル(イジー)もまた、ドナルドに恋をする。空き瓶が擦れる音がトラウマとなった女性。かつて、彼女は自分のからだをつかって「繋がり」を保とうとしていた。レイプされ、女性とも寝た。そんなイジーは、今、美容師をしている。ドナルドとイジーの、アスペルガー症候群同士の恋。これは完全なるラブストーリー。脚本は、「レインマン」で同じような症状の男性を巧みに描き出したロン・バス。

「安らげる場所が欲しい」。ドナルドに恋したイジーは、「家」を求める。失業中だったドナルドに「職」も紹介した。ふたりで、ありのままに、生活することを望んだ。無理に片付けるとドナルドは元あった場所にそれがないとパニックに陥ることも、放し飼いにした鳥たちも、壁にペイントすることも、芸術の云々も、これまで二人が別々にいたときには「風変わり」と思われていた諸々を受け入れ合った生活だった。

ある日、ドナルドが上司を家に招いた。出かける朝、ドナルドはイジーに言う、「今の会社を気に入っている、、、だから、感じよく頼むよ」と。

TO BE NICE.
感じよく。つまり、それは二人の生活が「アブノーマル」だから、今日だけは、上司の前では、「普通」にしてくれということ。

イジーは、それに憤慨する。「他人には普通の生活をしていると見せたい」ことに、、、「あなただって普通じゃないくせに」と・・・。すれ違った二人の間を仲間達が助け、お互いに逢いたくて。だけどなかなかできなくて。

ドナルドは、特別な店で、特別な夜を演出する。そして、特別なことを言う。
「ぼくには君しかいない。君にも、ぼくしかいない。」
Marry me...だから、結婚しよう。

他の人と変わらない救世主ぶったドナルドにイジーは怒り、店を出る。
精神科医は言う、「アスペルガー症候群って厄介ね」。

厄介。社会からそう思われた二人の、普通に起こりうる喧嘩・仲直り、そしてすれ違い。それらを描いた「ラブストーリー」。

もう電話はしないでおこうと決めた。数字のことを考える。数字を見て計算すると落ち着けるドナルド。ついつい受話器に伸びてしまう手。必死で数字を思う。だけど、これまではそうやって乗り切ってきた思いが、今度はだめだった。数字を思っても忘れることのできない、イジーへの想い。

ドナルドは、イジーに逢いに行く。
逢いにきたドナルドに、イジーは言う。
「未来は約束できない」と。「2日で終わるか 20年になるか」わからないと。
それをきいたドナルドが応える
「それが、普通だよ」

アスペルガー症候群という病気を持って育ってきた「おとな」同士の恋。そこには、自信がなかったり、人一倍「普通」になるために自分自身を傷つけてきたり。そういう色々な事情がある。

怒りと情熱をもった神の調べ、モーツァルトのイザベル。
大きくてパワフルなクジラに憧れるドナルド。

二人の普通の結婚生活が始まるところで、映画は終わる。



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モーツァルトとクジラ
mozart & the whale
2004年 (アメリカ)

監督:ペッター・ネス
出演:ジョシュ・ハートネット、ラダ・ミッチェル、ゲイリー・コールほか
脚本:ロン・バス