タランティーノらしいシーンの散りばめ方が、どこか安心する作品。印象に残るのは、たばこのシーンの多さ、そして、皮や瓶の効果音が高く、古き良き時代の映画をしっかりと堪能させてくれるところ。アメ車や飲み屋のシーンが、CGじゃないというこだわりも空気感から伝わる。

ストーリーは、落ちぶれたハリウッドスターと、その黒子、スタントマンの関係を軸に、イタリア映画界まで巻き込んだ、なるほど、こういうことがあったのか、と史実をみているようでもあり。子役のおしゃま、貧しい人たちの不信感、それに裏付けられた連帯感。ところどころでプッと笑ってしまう展開は、一定してスローだ。銃撃、決闘、馬、酒、女。この作品が、面白いかどうかを聞かれて即答できないのは、この展開のスピードと横幅のあるようでないところかもしれない。

が、ストーリーは、いくつも絡まりあいながら、丁寧に展開しているので、個人的には面白い作品だった。トレーラーで生活している、犬を飼っている、ドラッグにたばこ、リックの屋敷のアンテナを修理するシーン、隣の家から聞こえるレコードの爆音。シーンを切り取ると、やはり「映画」としての薫りが非常に高いことがうかがえる。

落ちぶれたスターが、思い切ってイタリアにいって成功して、見事復活するというサクセスストーリーの中に、そこはタランティーノ。ある種、強引なR指定の映像を放り込んでくる。ただ、このシーンが、やはり見どころであることも確かだ。

半端なところで
やめない
徹底した
ところ。


飼い犬が首を引きちぎり、プールに浮かぶ主人公のお惚けた感じ。

何とも笑えるような大御所の「形」を、ディカプリオは見事に演じ切っているともいえる。雑多で複雑、なのに単純なスター街道というドリーム。これは、一昔前、ワンスアポンアタイムの、実際のハリウッドの影か。

昔の人は、劇場から出てくると、みんな菅原文太みたいに、またはアル・パチーノのように。そんなことを聞くが、この映画も、見終わった後、少しだけそんな気分に浸れる。言ってみれば、お得な作品だ。

※ブルースリーのシーンは、どうなのかな。暗喩がどうもつかみ損ねるが、アジアを愛し、日本を愛するタランティーノの、あえてのあのシーンの真意に思いを巡らせると、一人勝手に楽しくなる。



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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
2019年(アメリカ)

監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、
   マーゴット・ロビー、アル・パチーノ、
   ラファル・ザビエルチャ、ダミアン・ルイスほか